なぜ彼がそうするのか、ボクにはわからなかった。

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「嫌だよ……こんな別れ方嫌だ……!!」 「……さようなら、もう会うこともないだろう。私がいなくても、前を向いて生きるんだよ」  それだけ言うと、彼はボクに背を向けて空き地の向かいの方へと歩き出す。  雨の勢いが強いせいか、彼が向かう先に見えるはずの森の風景は灰色の霧に包まれたような状態で先が見えなくなっていた。  その光景を目にして、まるで彼がどこか知らない場所に行ってしまうようなそんな気がして、ボクは必死に彼を引き留めようと叫んだ。 「ダメだ……!! そっちにいっちゃダメだ!! レイニー行かないで!!」  ボクの声は周りに降る雨の音でほとんどをかき消されて聞こえない。  それでも、ボクは叫び続ける。今までに自分でも出したことがないと思うほどの声を出して。叫びすぎて、掠れて声が出なくなるまでに。  ボクは必死に叫び続ける。  けれど、彼の姿は遠のくばかり。じわじわと灰色の霧にその姿が薄れて、存在が消されていくように見えなくなっていく。 「レイニー!!」  ボクが最後に彼の名前を叫んだ時、遠くで薄れて見えずらい彼の姿が一瞬こちらを振り向いた気がした。そしたら、ほとんど見えていないはずなのに彼がこちらを向いていることがボクにはわかった。  その時の彼の顔はいつもの微笑む彼の姿だったけど、どこか寂しそうに笑ってこっちを見ていた気がした。 「え…………」  ボクがその姿に気付いた時、雨は一層激しくなって最後に彼の姿を見たのはそれだけになった。  ボクは助かったけど、当然、あれからは彼の姿を見ていない。  あの空き地に姿を出しても、いつもみたいに笑いながら待っていてくれる彼はもういない。  唯一、ボクに残された数ある彼との思い出も、彼が最後の別れ際にボクを見て寂しそうに微笑んでいた時の記憶だけがボクの中で色濃く残っていた――。
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