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目が覚めた、なんて無い。
僕たちはいつでも、すっかり起き上がってから自分が目を覚ましたことに気がつくだけだ。
それも、橙色の光に包まれながら下校途中の子どもの声を遠くに寝坊したようなときだけで、
ふつうは朝の支度に追われて、目が覚めたことなんて忘れてしまうだろう。
いや、気づきすらしないかもしれない。
僕がこんなことを知れたのは、あの日から毎日、来る日も明くる日も、何時間だって、目が覚めた感覚を抱き続けているからだ。
あの後きみは、しゃぼん玉が割れるみたいに、簡単に消えてしまった。
だけど、僕が目を閉じてしばらくじっとしていると、風に揺れるカーテンの向こうから手を振ってくれるね。
だから僕は君の隣でいつまでも喋り続けるよ。
きみは白い光をたっぷり浴びて、あの日のままで、いつまでもいつまでも僕にほほえみかけてくれるから、
まぶたの重みを感じながらぼんやりと目が開く。
閉まりきっていないカーテンの隙間から射し込む光が、白い。
身体を起こし、足元に脱ぎ捨てられた服を拾う。
また、目が覚めた。
窓の外に目をやると、清々しい青空ばかりが僕の目を刺す。
蛇口からしたたる水滴が、昨日の食器を打つ音が響いている。
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