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まずあの時はどうしたものかと悩んでいただろう。目の前には翼もつ可憐な少女。静かに微笑んでいるだけ。人通りの少ない路地裏とはいえ、まったく誰も通らないというわけではない。
今は私だったが。違う人が見つけたのならば、追い払われるか捕まるか。否、気付かないという可能性もある。
酔いの醒めた思考を巡らせれば、思いつくのはただ一つ。私は彼女に対して興味を持っている。
話をゆっくりと聞きたいのならば、くつろげる場所へと向かえばいい。都合のいいことに私は一人暮らしだ。
彼女の手を引いて歩きだそうとして、はたと足が止まる。目立つものがひとつ、どうすればいいだろうか。
背の物はどうにかならないのかと彼女に訪ねると、ひとつ頷いて。後ろを向いてほしいと言う。
私は背を向けて、数秒待っただろうか。くい、と手を引かれたのでみると、翼はもうなかった。
どんな仕組みかと疑問に思いつつも、彼女を連れて自宅へと向かった。
幼子をさらっているような奇妙な背徳感に包まれながらも、私の足が再び止まることはなかった。
人のいない部屋独特の空気に包まれた自室。春が芽吹く前のうすら寒い季節。
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