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明かりをつけて、石油ストーブに点火した。じきに部屋の中は暖まり、吐く息は色をなくすだろう。
彼女をみると、いつのまにかソファに座っていた。物色するかのように調度品を見渡している。ぶしつけな見方ではなく、そう……子供が物珍しくて見るような。無邪気さを孕んでいた。
いまだ季節は春を迎える前であり、少し厚めのコートを着ても肌寒さを感じる。
彼女が着ているものは薄いワンピースで、それは春先あたりからのもの。寒くはないのだろうか。
キッチンで私は二人分のコーヒーを作った。好みがわからないので、両方ともブラックで。
くつろぐ彼女へ渡すと、ありがとうと言ってから口をつけた。熱いから気を付けてください、と言うよりも早かった。
一口を飲み込んだ彼女は苦い、と顔を歪めた。温度の方は気にならなかったようだ。
私は少し笑みを零しながら、テーブルの上のシュガーポットを彼女に差し出す。五つほど入れただろうか。
カップを揺らすようにして砂糖を溶かすと、彼女はふたたび口に含んだ。
今度は、顔がほころんだ。
望みの甘さになったようだと一安心して、ブラックをすする。黒い水面に揺れる自分の面を見てから。
そう、矢継ぎはやに質問を浴びせたと記憶している。
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