あなたなしでは。

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私が彼女と出会ってから、何年が過ぎただろうか。 職場での地位が少しだけあがり、私の肌は張りを失いつつある。 部屋の壁に掛けられたアンティークの時計の音。私の時を刻み、想いを切り刻む。 あと少し、そうしたらまた彼女はやってくるのだろう。 思い出は増えていくばかりで、狂おしいほどの熱は心に澱むばかり。 幾度伝えようとも、彼女は受け取ってはくれないから。 今では戯れに混ぜるばかり。甘ったるい言葉を吐き疲れても、苦痛には思わない。 化生は魔性、それは事実かもしれない。 私は実際に溺れ、今もなおこれから先も続いていくのだろうから。 こんな私のことを不幸だと憐れむものもいるだろう。私からすれば、そんな人の方が不幸なのだが。 後悔などはしていない。私は選択に疑問を持てるほど賢くはない。 彼女という存在を知ることができたのは、紛れもない……時の悪戯。 ソファに腰掛けて、じきに隣にくるであろうぬくもりを想う。願いを聞き届けるモノなどいないと彼女はいつか言ったけれど。 はかりしれない枝の先に、ひょっとしたらがあるかもしれない。 叶うのならば、最後は貴女の傍で終焉を。 私は、貴女なしでは生きていけそうにないよ。  ここの所雑音ばかり拾うようになった耳に、聞き慣れた足音が混ざる。 組んでいた足を崩し、ゆっくりとソファから立ち上がる。 一歩、また一歩とドアの前まで歩いていく。 ぴったり残り一歩、ドアの前で立ち止まると。 「こんにちわ、ジェヴァンニ」 変わらぬ姿で愛しい人が、ドアを開けて。 「貴女は残酷な人だ」 私は肩をすくめてから、両腕を広げて出迎える。 ずっと私は――異形に恋をしている。
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