0人が本棚に入れています
本棚に追加
私が彼女と出会ってから、何年が過ぎただろうか。
職場での地位が少しだけあがり、私の肌は張りを失いつつある。
部屋の壁に掛けられたアンティークの時計の音。私の時を刻み、想いを切り刻む。
あと少し、そうしたらまた彼女はやってくるのだろう。
思い出は増えていくばかりで、狂おしいほどの熱は心に澱むばかり。
幾度伝えようとも、彼女は受け取ってはくれないから。
今では戯れに混ぜるばかり。甘ったるい言葉を吐き疲れても、苦痛には思わない。
化生は魔性、それは事実かもしれない。
私は実際に溺れ、今もなおこれから先も続いていくのだろうから。
こんな私のことを不幸だと憐れむものもいるだろう。私からすれば、そんな人の方が不幸なのだが。
後悔などはしていない。私は選択に疑問を持てるほど賢くはない。
彼女という存在を知ることができたのは、紛れもない……時の悪戯。
ソファに腰掛けて、じきに隣にくるであろうぬくもりを想う。願いを聞き届けるモノなどいないと彼女はいつか言ったけれど。
はかりしれない枝の先に、ひょっとしたらがあるかもしれない。
叶うのならば、最後は貴女の傍で終焉を。
私は、貴女なしでは生きていけそうにないよ。
ここの所雑音ばかり拾うようになった耳に、聞き慣れた足音が混ざる。
組んでいた足を崩し、ゆっくりとソファから立ち上がる。
一歩、また一歩とドアの前まで歩いていく。
ぴったり残り一歩、ドアの前で立ち止まると。
「こんにちわ、ジェヴァンニ」
変わらぬ姿で愛しい人が、ドアを開けて。
「貴女は残酷な人だ」
私は肩をすくめてから、両腕を広げて出迎える。
ずっと私は――異形に恋をしている。
最初のコメントを投稿しよう!