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ところが、三十五歳になっても、四十歳になっても、俺には死の兆候が一向に表れなかった。
やがて、年老いた父を見送り、数年後に母も見送った。
俺より十年下の、短命だとわかった女の子が、三十になる前に衰弱して亡くなった。
俺は生きている限りこの村で薬師をしていこうと思っていた。けれども、五十歳を過ぎた頃から、村人が俺に向ける視線が変わってきた。
そうして、村の世代が一通り変わるころ、俺は薬屋を閉じた。
訪れない死を自分から迎えに行く覚悟ができたからだった。
最初に、俺は致死量の睡眠薬を飲んで眠りについた。永遠の眠りになるはずだった。
翌朝、俺はいつも通り目覚めた。体調は良く、何事もなかったかのように一日が始まった。
混乱した俺は、今度は猛毒を持つ花の根を探してきて、それを煎じて飲んだ。
身体が燃えるように熱くなり、息が詰まり、たくさん血を吐いて、やがて意識を失った。
それだけの苦しい思いをしても、俺はまた、普通に目覚めた。
三回目、今度は首を吊ることにした。呼吸ができない状態で、目が覚めることはないだろうと思ったからだ。
ところが、それも失敗した。
目覚めた時最初に目に入ったのは、村人の驚いた顔だった。
その驚きは気味悪さと恐怖によるものだった。
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