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ある朝、俺はいつも通り、朝食を食べに彼の店に向かった。
「やぁ、いらっしゃい」
彼はいつも通り微笑んでそう言うと、今日はカウンターテーブルに座ってほしい、と言って自分の目の前を指差した。
いつも通りのメニューを俺の前に並べて、俺が食事をしている間、彼は静かに本を読んでいた。
そして、食事を終えるとトレーを下げ、少し待っていてほしいと言って出入り口に向かった。
カロン、という音がした。どうやら、オープンの掛け看板をクローズにしたらしい。
「さて。君が最後のお客さんだ」
彼はカウンターに戻るとそう言った。
「店を閉めるのか?」
「うん。知ってるかもしれないけど、僕は短命でね。もうそろそろ寿命なんだ。だからその前に、のんびり旅でもして過ごそうかと思ってね」
「そうか……残念だ。君の淹れてくれる紅茶はおいしかったから」
「そう言ってくれると嬉しいよ。それじゃあ、最後の一杯に付き合ってもらっても良いかな」
彼はそう言ってティーカップを差し出してきた。ミルクティーだった。
「これ……」
「覚えてる?」
「ああ。君のとっておきだろう? 初めて店に来た時に淹れてくれた」
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