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「そう。最後に君と飲もうと思って待ってたんだ」
彼は自分の分もミルクティーを淹れて、俺の正面に座った。
俺は一口、ミルクティーを口に含んだ。
記憶にある通りの味だった。仄かに甘くて、気持ちをほっこりと和ませてくれる。
俺たちは、互いに黙って、ゆっくりとミルクティーを飲んだ。
やがてカップが空になると、彼は黙ってそれを片付けた。
それから、エプロンのポケットから、封筒を一枚、取り出した。
「これ、今夜宿に戻ってから、一人で読んでくれるかい?」
「手紙か? 今ここで話せばいいだろう?」
「それじゃダメなんだ。ねえ、僕のことを友人と思ってくれるなら、一度だけで良い、このお願いを聞いてはくれないかな」
彼はそう言って、微笑みながら首を傾げた。
俺はしばらく考えた後、黙ってその手紙を受け取った。
「ありがとう」
彼は嬉しそうに笑った。
そんな彼に笑い返して、俺は席を立った。そしてドアの前で、一度だけ振り返った。
「……君に会えて良かった」
「僕もだよ」
彼はそう言うと、ひらりと手を振って見せた。
俺は一度だけ手を振り返した。それから店を出た。
閉じる扉と共に揺れた掛け看板が、カロンと音を立てた。
もう、振り返ることはしなかった。
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