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習慣とは恐ろしいもので、俺は自然と先生の家に向かい、家の戸をノックしていた。
「……入りなさい」
先生は何も聞かずに、俺を家に招き入れてくれた。
先生は俺を椅子に座らせると、温かいミルクティーを淹れてくれた。
それから、小さなテーブルを挟んで向かいの椅子に座ると、そのまま何も言わずに本に目を落とした。
しばらく、先生が本のページをめくる音だけが部屋に響いた。
俺はそれをぼんやりと聞きながら、やがてミルクティーのカップを手に取った。
温くなったミルクティーは、ほんのりと甘かった。
ゆっくりと時間をかけてそれを飲み終えた俺は、一度深呼吸して、それから先生に言った。
「俺は短命かもしれません」
先生はページをめくる手を止め、俺に視線を向けた。
「一年前から、身長が全く変わりませんでした」
「……そうか」
先生は静かにそれだけを口にした。
俺は先生を見た。
もうだいぶ年齢を重ね、自分よりもずっと小柄に見える彼は、もし俺が短命だとしても、きっと先に逝ってしまうだろう。
だと言うのに、先生は俺から見て、とても大きな存在だった。
「……質問があります」
「何だい?」
先生はいつもそう聞き返してくれる。そして、質問に返答がなかったことは今までに一度もなかった。
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