またいつか、何処かの未来で

6/19
前へ
/19ページ
次へ
 習慣とは恐ろしいもので、俺は自然と先生の家に向かい、家の戸をノックしていた。  「……入りなさい」  先生は何も聞かずに、俺を家に招き入れてくれた。  先生は俺を椅子に座らせると、温かいミルクティーを淹れてくれた。  それから、小さなテーブルを挟んで向かいの椅子に座ると、そのまま何も言わずに本に目を落とした。  しばらく、先生が本のページをめくる音だけが部屋に響いた。  俺はそれをぼんやりと聞きながら、やがてミルクティーのカップを手に取った。  温くなったミルクティーは、ほんのりと甘かった。  ゆっくりと時間をかけてそれを飲み終えた俺は、一度深呼吸して、それから先生に言った。  「俺は短命かもしれません」  先生はページをめくる手を止め、俺に視線を向けた。  「一年前から、身長が全く変わりませんでした」 「……そうか」  先生は静かにそれだけを口にした。  俺は先生を見た。  もうだいぶ年齢を重ね、自分よりもずっと小柄に見える彼は、もし俺が短命だとしても、きっと先に逝ってしまうだろう。  だと言うのに、先生は俺から見て、とても大きな存在だった。  「……質問があります」 「何だい?」  先生はいつもそう聞き返してくれる。そして、質問に返答がなかったことは今までに一度もなかった。     
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

137人が本棚に入れています
本棚に追加