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それから三年後、先生は静かに息を引き取った。
俺は全ての知識を受け継ぎ、一人で患者を受け持つことができるまでになっていた。
先生が居なくなって、俺は泣いた。
いつかは誰でも死んでしまう。けれども、遺された者にとって、その人が居なくなった穴を埋める者は他に存在しない。
先生の存在は、俺の一部になっていたのだと感じるほどだった。
ところが、時間の経過とともに、少しずつ、先生の居ない悲しみは薄れていった。
穴が埋まったわけではない。思い出が増えるにしたがって、心を占める穴の存在が、段々と小さくなっていったのだ。
やがて、先生のことを思い出すとき、俺はいつも穏やかな気持ちでいられるようになった。三十歳を間近に控えた頃のことだった。
もう、いつ死んでもおかしくはなかった。
俺は短命なのだと悟ったあの日から、少しも老いてはいなかった。
あれから十数年が経ち、両親にはしわや白髪が増えた。幼かった子供たちは大人になり、既に親になった者もいる。
その全てが、時間の流れを感じさせた。止まったままの俺の時間は、そういう外部の時間と共に、ゆっくりと流れていった。
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