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僕と妹
僕の寿命はもうじき尽きる。
永いこと待たせたね。やっとお前の所へ行ける。
医者も看護士もいない部屋の中、ベッドの傍らに立つ少女に心の中でそう話しかける。
この少女は六十年以上前に死んだ…僕が殺した僕の妹だ。
当時妹は十二歳。元々可愛かったけれど年相応に大人びてきたせいで、僕の中学の同級生達がやたらと妹を見て騒ぐようになった。
愛だ恋だを思うような年齢じゃない。単純に、見目のいい異性に興味を引かれているだけ。
今ならそうと判るけれど、当時の僕には妹が騒がれることが鬱陶しくて仕方がなかった。
ろくに知らない奴が妹に直接会わせろと言ってくるのは不愉快だったし、友達と思ってる相手でも、妹にちょっかいをかけたいと思っていることが嫌だった。
僕にとっては、大人びてこようと何だろうと妹は妹で、ただ成長しているというだけなのに、それで周りが騒ぐのが疎ましい。単純にそう思っていた。でも本当はそうじゃなかった。
あの日、親友だと思っていた相手に告げられた言葉。それを今でもはっきりと思い出せその時の心理状態も。
「俺、お前の妹と交際することになった」
妹はまだ十二歳。小学生だ。もちろんこっちだって中学生。
子供同士で何を馬鹿なと笑ったが、親友は本気の目をしていた。
行動力のある奴だから、僕が知らない間に妹に告白したのだろうか。それを妹は受け入れたのだろうか。
真相をどうしても聞きたくて、家に帰り、妹に問い質そうとした。でも妹の顔を見た途端、僕の中で何かが弾けた。
小さな頃は『お兄ちゃん、お兄ちゃん』と、僕の後を必死について回っていた妹。改めて向かい合うと、その小さな少女は、まだ充分に少女ではあるけれど、確かに大人の女の人に近づきつつあった。
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