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「そうだね、そういう日が来るといいですね……」
寂寥感。
そんな言葉を辞書で見かけた事があった。
心が満ち足りず、もの寂しい事を指すときに使うらしいが、こんな難しい言葉を一体どこで使うのだと、つい先日まで僕は思っていた。
「親父さん、残念だったな……」
でも、この言葉の意味を、今の僕なら分かる気がしていた。
「……そうですね……でもまだ、あまり実感なくて」
「……そうだな、まだ時間はかかるさ。おじさんも子どもを亡くした時はそうだった」
ただ遠くで、慰めるように潮騒が僕とおじさんを包み込んでいたかのようだった。
そんな事あるわけない事くらい分かっているけれど。
僕の父も漁師だった。
そして五日前、祖父と同じように漁に出て、それっきりだった。
カラカラに乾いたこの浜の砂みたいに、僕の体の中から水分と一緒に何かが抜け出てしまって、寂寥感とかいう感覚に侵食されていくのが怖かった。
僕は漁師もこの町も嫌いだけど、父のことは好きだったから。
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