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夏の肌に纏わりつくような蝉の声も落ち着き、また気怠く単調な生活が再開する。そう思った時には、制服を着たままバスに飛び乗っていた。
バスに揺られながら車窓越しに見える景色は、30分もすれば山や田園の緑が視界一面を覆い尽くし、更に30分すると海沿いの国道をひたすら走り続けた。
先月祖母が亡くなり、空き家となってしまった祖母の家に上がり込み、歩いて五分程の海岸の浜で僕はひとり寝転んでいた。
これは謂わゆる厨二病とかいうやつなのだろうか。
はっきりとした理由はわからなかったけど、自分の中に漠然と漂う虚無感てやつを解決する術を求めてここに来ていた───そんな気がする。
いや、ある筈ない事くらい分かっているけど。
この町は、それこそ小さな海沿いの田舎町だった。
海をぐるりと囲むように、弓形の土地に小さな民家が所狭しと押し込められていて、石畳が敷かれた通り沿いには、ノスタルジックな風情が残る何百年も前の酒蔵なんかが軒を連ねている。
日中はそんな風情を求めて観光客も僅かながら訪れるけれど、深夜から早朝にかけてはよく他所から釣り人がやって来るらしく、車の行き来が絶えない。
でも港に近づくと、港町独特の生々しい匂いが立ち込めてきて僕は苦手だ。
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