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祖父はこの町で漁師をしていた。
父がまだ幼い頃に海の事故で亡くなったのだと、祖母から聞かされていたのをぼんやりとだが覚えている。
祖父の思い出が何一つない僕は、「そうなんだ」としか言わなかったし、そもそも『おじいちゃん』という存在自体に実感がないものだから、大して寂しいと感じた事はなかった。
ただその話を聞かされた時、女性らしさのないゴツゴツとした祖母の分厚い掌で、頭を撫でられた事は良く覚えている。
港町ではよくある話らしく、この辺の集落でも二割の家庭がそう言った事故で片親だった。
それなのに、なぜか町の皆んなはいつも笑っていた。まるで身内の死が誇らしい事でもあるかのように、平然と笑いながらその話をするのだ。
まるでそれが当たり前であるかのようにさえ思えて、気味が悪くて僕はその話を聞いた頃から、祖母の家には行かなくなっていた。
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