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砂を巻き込みながら単調で緩やかな波の音が、細かな砂を通して耳の奥に反響していた。
うつらうつらする意識の中で、僕は目を瞑りながら、一時間程前に眺めていた蜜柑色の夕焼けを瞼に映していた。
海岸沿いを走る細い国道から砂浜に降りる階段の中程に腰をかけていた時の事だ。
「あれ、中川さんとこのお孫さんかい?」
祖母の二軒隣に住む小島のおじさんだった。
「どうも、ご無沙汰です」
「学校はどうしたん?」
「登校拒否中です。思春期なんで、反抗期みたいなもんですかね……」
「上手い事言うなぁ、最近の子は」
言いながら、小島のおじさんは僕のとなりに何の気なしに腰を下ろした。
「俺はなぁ、漁師って仕事が大嫌いだった」
腰を下ろすなり、突然話はじめる小島のおじさんの声を左耳で受けながら、右側の風が抜ける音を感じていた。
「この辺じゃ、当然みたいにみんな漁師になっていくのさ。俺の先輩も、後輩も、友達も、みんなだ」
小島のおじさんは、この辺でも漁獲量が断トツに高い腕と勘の良い漁師だ。と祖母が言っていたのを思い出した。
「そんでな、みんな同じ様に海へ出て、網投げて、必死に引き上げて、嘆くのさ。何に嘆くのか分かるか?」
「魚が掛からない……とか?」
「おしい! 魚はいるんだ。でも、邪魔者が多い」
「邪魔者?」
「そう! クラゲだよ、クラゲ。あいつら網の大半を占めてやがる」
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