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小島のおじさんは、海岸に押し寄せる波のずっと向こう側を見つめていた。
夕焼けが差し込んで、おじさんの日焼けした無骨な肌を赤黒く光らせた。男の貫禄ってやつを見た気がした。
「死んだよ、沢山な。 それでもやってかなくちゃならん。それが嫌で嫌でな、漁師をやめたいって何度も思った。ほら、若い時ってのはさ、何つーのかな、『人の死』ってのをやたらと深く考えちまうだろ? 」
そう、まさに僕がそうだった。
「おじさんも、深く考えたんだ?」
少しだけ興味が湧いて、僕は首だけを小島のおじさんの方に向ける。
右の耳には波の音が鮮明に聞こえ出す。
「考えた。死にたくねーなって。長生きしてーなって。長生きして、美味いもんいっぱい食って、酒も好きなだけ飲んで、料理上手な嫁さん貰って」
「食べる事ばっかだね」
「漁師は腹が減るんだよ!」
ガハハと大きな口を開けて笑う目尻には、沢山のちりめんじわが寄っていた。
きっとよく笑う人なんだなと思いながら、また嗄れた声に耳を傾ける。
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