9人が本棚に入れています
本棚に追加
/180ページ
彼の姿が見えると、ダンはぶっきらぼうに手をふってみせた。
「よお、ヨシ」
ヨシはランドマークにつながる広場の隅で、あぐらをかいていた。
手にはアコースティックギターが握られている。
いつもの調子で軽口をたたきあってから、適当にギターのチューニングをし、二人は歌いはじめた。
梅雨時の風が本当に生暖かい季節だった。
教師って奴が
俺を俺でなくそうとしてる
俺達 知ってんだぜ
奴らは工場長のように
出来のいいロボットを 造ろうとしてるだけ
あそこのネジがほしいんだろ?
だがおまえさんにゃ 手に入らない
さびついたイスが 笑ってらぁ
もう 過ぎたことだって
どんな時も笑っていただろ
いらいらしたりもしたけどさ
二、三人の通行人が、じろっと彼らを見ては、足早に通っていく。
下手くそな歌はどこかに届くこともなさそうに、夜空に吸い込まれていった。
けれど、ダンはがっかりしたりはしない。
だいたいはこんな夜だし、何よりもこういう何もない時間に、居心地のよさを感じているからだ。
最初のコメントを投稿しよう!