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それでも、3コードだけで作った持ち歌二曲と、ブルーハーツのコピーを何曲か弾いた頃には、ものずきな人達が五人ほど、拍手を送ってくれた。
どうやら、今日はついているらしい。
床に置いたハットの裏には、横浜から渋谷まで往復できるほどの小銭が入っていた。
二人は、少年らしい無邪気さでこの報酬に頬をゆるませた。
その金で缶コーヒーを買うと、うんと足を伸ばした。
ダンは、横浜市内の公立高校に通う、高校三年生の少年だ。
もちろんダンというのは仇名で、本名は青井団次という。
坊主頭を銀色に染めており、片方の目だけ二重で、少し太めの眉の下で鋭く光るその眼が、いかにもやんちゃだ。
団子型の鼻とおちょぼ口が彼の容姿を実年齢よりも若くみせているけれど、服の下には筋肉質な肉体を持っていた。
ヨシ(本名は山田義久)は、ダンの母方の従兄弟で、彼とは幼馴染でもあり、小さな時から二人でよく一緒に遊んでいた。
性格に少し皮肉なところがあって、遊ぶことが好きなくせに基本的にはクールだ。
長髪を頭の後ろで結っているのが彼のポリシーで、少し腫れぼったい二重の眼と大きな耳がその髪型によく似合っていて、年下の女生徒にもてた。
ヨシも高校三年生で、工業高校に通っている。
ヨシが、ギターケースにギターをしまってから言った。
「この忌々しい梅雨が明けたら、いよいよ夏休みだな」
「その前にあれだ。えと、テストがあるぜ」
「おまえ、何だかんだで成績いいからいいじゃん。それは俺のセリフだぜ」
ダンは苦い顔をした。
「忌々しいのは、みんな一緒だべ」
二人はちょっと笑うと、その場を後にしようとした。
その時、
「ねえ」
と、女の声がした。
二人はハッとなって、前を見た。
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