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二.
ダンの母親――青井直子は、広告代理店で働いている。
十年前にダンの父親でもある夫を亡くし、女手一つで息子を育ててきた。
まだ十分に美しいが、本人に再婚するつもりはなかった。
朝、少女の姿を見ると、直子はダンの顔をギロッと睨んだ。
少女はそれを察したのか、すぐに昨夜の一件を説明しだした。
彼女はそれを聞くと、感心したような顔で息子に言った。
「あんた、昔はよく色んなガラクタを拾ってきたもんだけど、まさかこんな可愛いコまで拾ってくるとは思わなかったわ」
ダンは、赤くなった顔で苦笑いしている。
「とにかく、二人とも座りなさい」
若い二人を座らせると、直子は朝食の準備をはじめた。
その間、少年少女は一言も口をきかなかった。
朝食の用意が整い、三人でテーブルを囲むと、直子が最初に口を開いた。
「私はこのバカ息子の母親で、青井直子といいます。あなたは?」
少女は、顔をこわばらせていた。
「私は、その……」
「いいわ、あなた位のコって、言いたくないことってあるもの」
少し赤くなった顔で、少女は「はい」と小さく頷いた。
このおかしなやりとりを、ダンは面白そうに見ている。
「いやあ、やりづらい奴を扱うのは慣れてんなあ、母ちゃんは」
直子は、そうね、と相槌をうつ。
少女は、相変わらず無表情のままだ。
朝食にもまったく手をつけていない。
「食べなさい。若いコが遠慮しちゃだめよ。ダイエットなんろくなもんじゃないんだから。ねっ?」
少女は恥ずかしそうに、コクッと頷くと、一口つけてから、一気にバクバクと食べはじめた。 ろくに食べていなかったのだろう。
クールにふるまうこの少女の恥じらいが、長いこと二人だけで暮らしてきた直子にとっては、新鮮な光景だった。
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