【さようならにこんにちわ】

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 あなたと別れて、私は変わりました。  髪を茶色に染めました。  ピアスの穴も開けました。  コーヒーよりは紅茶派に戻しました。  寿司屋に行かなくなりました。  CD屋に立ち寄ることも。  本は図書館で借りるようになりました。  休みの日は一日図書館に居ることすら珍しくなくなりました。  スマホゲームからも卒業しました。  思えばあなたと会っていた時も、あなたも私もゲームに夢中で、交わした言葉は情報交換だけだったね。  それでも私達、付き合ってたって言えたのかな。  今となってはそれすら疑問だけど。  今、私の隣にも向かいにも誰も居ない空間を前にして、寂しさよりも虚しさよりも安堵感を覚えているのはどうしてかな。  あなたのこと、ちゃんと好きだったはずなのに。  なんで私達、別れることになったんだっけ。  いつから私達、別れたんだっけ。  メールが一通、届いただけだったね。  なんかもう、終わりにしない?って。  それに対して私も返したのはひとことだったね。  そうだね、わかった、そうしようって。  それでおしまい。それがさようならの全てで。  これが私の初めての「さようなら」だった。だから。  きっと今の私は、「さようなら」に「こんにちわ」をしているんだと思う。  こんにちわ、「さよなら」を体験した私。  これからの私はもう自由だよ。  別に何に束縛されていたとは思わないけれど。  それでも一人で何かをすることに、理由を必要としない、それだけでも何かが違くて。  寂しさ、虚しさはこの後にやってくるのかな。  けどその時はその時でまた、「こんにちわ」って挨拶すればいい。  秋の気配には紅茶がよく似合う。  誰も居ない空間を独り占めして、ただ自分のことだけを考えて。  図書館から借りてきた本を捲りながら一人に浸る。  また、誰かを愛せる日が来るまで。  「さようなら」に「こんにちわ」し続けて、きっとそれが終わる頃には「初めまして」に出会えるのだとしたら。  そうか、だから「さようなら」が必要だったんだね。  「初めまして」のために必要なもの、それが「さようなら」だったんだ。  それがさよならの理由だったのなら、あなたにも同じさよならであってくれたらと思うよ。  風で捲れたページの端に、「さようならにこんにちわ」という文字を見た気がした秋の午後。 【Fin.】
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