0人が本棚に入れています
本棚に追加
ある日、俺は女の子の顔を見たくなった。けれど、女の子はいつも遮断機の目の前に立っており、とても顔が見える位置ではなかったので、俺は、反対側から女の子の顔を見る事にした。
いつもよりほんの少しだけ早く家を出て、俺は踏切を渡り終えて7時42分を待つ。反対側に来ることで女の子が見えるのか不安もあったが、女の子は今日もちゃんと現れた。ただ、やはり距離がある分はっきりとは顔が見えない。けれど、それなりに端正な顔立ちなのだというのはなんとなく見て取れた。凛と姿勢を正して立っている姿は、とても今から電車に飛び込む姿ではない。けれど、女の子はやはり遮断機をくぐって電車に飛び込むことを今日も忘れなかった。
次の日、もう一度女の子の顔を見るために反対側に立ってみた。そして、いつもの時間に女の子が現れた。俺は女の子をじっと見ていると、今日は不思議と女の子の顔がはっきりと見えた。とても中学生には見えず、大人びた顔立ちの女の子と目が合った。俺はいつもと違う状況に体が固まる。まるで世界の時間が非常にゆっくりになってしまったかのように感じた。女の子は俺を見ると、とても嬉しそうに微笑み、そして電車に飛び込んだ。
ガタンゴトン。
無機質ないつも通りの音が流れ、時間は当たり前の速度で過ぎていく。
最初のコメントを投稿しよう!