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遮断機が上がっても、今日の俺はそこから動けないでいた。女の子があんなにも幸せそうな顔で飛び込んでいたことに、軽くショックを受けていたからだ。てっきり、女の子は悲痛な表情を浮かべて飛び込んでいたものと思っていただけに、言葉にできない衝撃を受けた。
『あの子は毎日、幸せそうに飛び込んでいたのか?』
何ともいえない衝撃を受けた次の日、7時42分になっても女の子は現れず、そして電車が通り過ぎても女の子は現れなかった。次の日もその次の日も7時42分に踏切で待っていても女の子は現れない。俺は女の子がいた位置をじっと見て考えていた。
『もしかして、誰かに気づいてほしかったのか。自分が、ここで死んだってこと』
女の子の遺書の話を思い出す。クラスメイトが「あなたが私を忘れないように、あなたがよく通る場所で死んできます」と書いてあったと言っていた。
「確かに、忘れられそうにない」
俺は決してこの出来事を忘れることはないだろう。女の子が幽霊になっても電車に飛び込み続けている光景は、忘れようがない。
『これで成仏できたのかは俺にはよくわからないが、でも、あの女の子が電車に飛び込むのをやめて、この世界からさよならできた理由が生まれたのなら、それでいいのかもしれないな』
学校からの帰り道、俺は途中で花屋に寄って一輪のスイートピーを買うと、踏切の脇にそっと置き、手を合わせた。
朝7時42分だけの非日常は終わった。電車に飛び込み続けることを選んだ女の子が、来世では幸せになれることを願っていよう。
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