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「幸せにしてあげられないわ。だって母親がこんなんじゃ、かわいそう。」
沈黙に、鍋の蓋の金属音が響く。
親になる覚悟がない母親と若くて無知な父親で、子どもなんか育てられるわけない。
「生まれるまで時間が有るんだから、少しずつ母親になればいい。」
明生さんはさっきまでとはまた別の意味で汗をかいている。
まさか妻からこんな言葉が出てくるとは思ってなかったってとこかしら。
「幸せかどうかは子どもが決めるんだよ。可能性を奪うのは間違ってる。」
明生さんの手が震えてる。怒ってるのか、悲しんでるのか、どっちでしょう。
「不幸に決まってる。わかってるのに、どうしてわざわざ苦しめるの。」
目に涙が浮かんでくる。わたしも、明生さんも。
鳴り響く金属音が耳につく。
「とりあえず、病院に行こう。それから少しこの話はやめてお互い頭を冷やそう。」
涙を拭いながら明生さんがつぶやく。
私はようやく鍋の火を落とした。
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