マタニティ・ホワイト

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検診の日が来て、待合室に明生さんと二人で座る。 予約の時間より半時間も早く着てしまったから、随分待たなくちゃならない。 時間通りに来たって待たされるのに、明生さんは早とちり。 待合室は、子どもの声と若い夫婦の喋り声で少しざわついていて、幸せとか高揚した気持ちの甘い匂いがふんわりと漂っている。 「やっぱり産んでほしいよ。」 周りの喧騒から浮き彫りのようにぽっかり目立つ声が聞こえた。 声の方に目をやると、言葉尻の口の形を残して熱心に空気を見つめる明生さんの横顔と出会う。 「幸せにできないわ。」 「そんなの、わからないよ。」 少しだけ強い語調で帰ってくる。 自分の言葉に遅れて気づいたのか、明生さんはごめんとつぶやいた後、背もたれに寄りかかって喋り始めた。
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