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=むず痒くふける夜=
次の日、会社に到着するなり、直ぐに陽平は秀哉に呼び止められた。
秀哉は陽平の勤める会社と取引のある企画運営会社の営業なのだが、今日は朝からこちらに用事があったようだ。
「おい、昨日『かば屋』に行ったんやろ?その後はどこへ行ったん?なんかぼやあっとした顔で、ふらあっと出て行ったってマスターが言うてたから心配してたんやで。」
「ああ、すまんな。別にどっこも行ってないで。普通に帰ったで。あっこのテレビにな、昔のドラマが流れててん。ほんでな、昔の懐かしい時代を思い出してな、立ちなおらなアカンて気付いてん。」
「おお、やっと気付いたか。ほんで気付いたらどうすんねん。」
「それはこれから考えるわ。」
「おし、ほんなら今晩はいつもとは違う店に連れてったろか?フリフリがええか?ナースがエエか?」
「それはまた今度な。今日は先約があんねん。」
「誰とどこへ行くん。」
「それは内緒や。ヒデちゃんもボチボチにしときや。ちゃんとした恋愛しなアカンのはお互い様やで。」
「もうオレはええねん一生独身で。一生遊んで暮らしたんねん。」
「まあ、そういうヤツに限って、こそっと結婚しよんねん。」
「うっ。」
「なんや、どうした。」
「実はな、来週見合いすんねん。」
「なんやそれ。どっからの話なん。」
「お袋がまだかまだかってやかましかったしな、勝手に話を進めとったみたいやねんけど、相手の写真見たらめっちゃ美人やし、おっぱいもそこそこあるし、ちょっと興味湧いてな、逢うことになってん。向こうも会うてもええって言うてるらしいし。もしかしたら、トントン拍子に進んだらお先に決まってまうかもな。」
「なんや、さっきまで一生独身でエエとか言うてた奴が。」
「アカンかったときバツ悪いし、黙ってよと思たんやけど、話の展開上な。おまいさんも早いことちゃんとした相手探ししいや。」
秀哉は自分の言いたいことだけ喋りまくった後、満足したのか、陽平の返事も聞かずに背中を向けて、とっとと用事のある部署へ走り去った。
「なんか取り残された感が満載やな。」
ボソッと一人呟いてみたが、それを聞く相手はどこにもいない。
なんだかやや肩を落とし気味に自分のデスクに座ってボーっとしていると、いきなり背中を叩かれた。
「どうしたんですか尾関さん。なんだか疲れてます?」
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