=むず痒くふける夜=

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「みんなでワイワイ言いながら食べる方がエエやろ?中華なんかどう?」 「ああ、それ賛成!ちょうどウチの口の中が麻婆豆腐やってん。」 速攻で賛成してきたのが梨香だった。 会社は京都駅から徒歩十分。十階建ての二階と三階のフロアが会社のオフィスになっている。言い忘れているが、陽平が勤める会社は京都市を訪れる観光客向けのお店情報や神社仏閣情報を提供しているタウン誌を発刊している会社である。生まれは綾部市だが、京都市内の私立大学を卒業した後からずっと古都の佇まいに馴染んでいる。この古い街並みを多くの人にアピールしたくてこの仕事を選んだのである。 情報誌の仕事に繁忙期も閑散期も無い。あるとすれば正月の直前が地獄絵図のようになるぐらいか。そんな毎日の中、残業に一区切りついた連中で飲みにいくのがこの会社の慣わしでもあった。もちろん、社長を始めとする上司たちが率先して参加してくるのだから、頻繁にその会は開催される。 「さて尾関クン。キミは最近、どうして浮かない顔をしているのかな?」 やや先輩風を吹かしながら乾杯と同時に陽平の肩を叩くのは加藤女史である。 「それって言わなダメですか?」 「なんで?そんな言いにくい理由なん?」 「若い女の子の前ではチョッとね。」 「あんな、ヒデちゃんから聞いたで。あんたもうそこそこの年やねんから、ええ加減にお店の女の子ばっかし追いかけんのやめときや。」 「ええ?今日は加藤さんの説教を聞くために設定された席なんですか?」 「そうやで。あんたに女の子のこと教えてあげよう思って、わざわざ設定してあげたんやんか。」 「何でも聞いてくださいね。」 四人がけのテーブルで、陽平の前に鎮座している若い二人がニコニコして微笑んでいる。 「そんな紛らわしいことせんでも、梨香ちゃんでも瑞穂ちゃんでもボクと付き合ってくれたらええだけやんか。」 「尾関さんもう三十中盤でしょ?ウチらとはちょっと年が離れてるしな。エエ人やとは思うねんけど、ウチの理想とは何か違うな。」 「私も尾関さんはエエ人やと思うけど、なんか遊んでる感じに見えるしな。女の子は誠実な人がよろしおす。」 二人の女の子たちは、運ばれてきたばかりの餃子を頬張りながら、それぞれ陽平の批評を始めている。
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