=むず痒くふける夜=

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「せやん、結構見かけはエエのになんで彼女がおらへんのかわからん。よっぽど遊んでるんちゃうん。」 「そう言うたらY企画の米谷さんと仲エエんでしょ。あの人、風俗ばっかし行ってるって、女の子の間でも有名やし、一緒に遊んでる尾関さんも同類やと思われがちやと思う。」 「仕事もちゃんとできはるし、普段は優しいてエエ人やねんけど、それがなあ。」 「待て待て、ボクそんなに行ってないで。ヒデちゃんと一緒にせんといて欲しいな。そら、ボクかて男やし、そんな店に興味がないことはない。せやけどアッチにもコッチにも行ってる訳やないで。」 二人とも悪気は無いのだが、格好のターゲットになってしまうことには違いなかった。陽平も気まずそうに中華をつまんでいたが、それを見かねた加藤女史が陽平の肩を叩く。 「今の話ってな、キミは素行さえエエように映れば、女の子らにはモテルでって言う意味やで。」 「そうですよ、年齢さえそんなに離れてへんかったら、ウチが立候補しても良かったのに。但し、風俗遊びは辞めてもらうけどな。」 「風俗なんか行ってないし。それに、キミみたいに可愛い彼女がおったら、女の子の店なんか行かんでもええわけやん。」 加藤女史は嗜めるように陽平の目を見据えて、 「ウチもな、あんたやったらちゃんとした恋人見つけられると思うから言うてあげてんねん。あんたも少し真剣に考えてみたら?」 「うう、結局説教タイムか。今日の麻婆豆腐が美味くないわけや。食欲がだんだん無くなって来たんで、ここいらへんで帰らせてもらいますわ。」 「応援してんねんで。」 陽平が席を立つと同時に、その手を握って目を見つめた。 「おおきに。ほな失礼します。ご馳走様でした。」 店を出ると陽平の足取りは自然にネオン街へと向かっていた。 恋人がいらないなんて言ってない。いつだって募集中だった。如何せん同じ職場の女の子に本気で興味を示したことは無かったと言っていい。職場結婚している同級生たちが、そぞろ不平不満を漏らしているのを、若い頃に散々聞かされていたからである。 職場以外の出会いを求めていた陽平は、徐々に取り残されていくこととなり、秀哉とつるむようになったのである。 「そんな簡単に恋愛できるんなら、今どき一人でなんかおらん。寂しいのは毎日のことや。せやから癒されに行くんやん。」
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