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慰めて欲しかったのか、酔いが回る前からクダを巻く陽平。秀哉はそれを言い聞かせるように肩を叩き、酌をしながら諌める。
「それがな、彼女たちの常套手段なんやねん。口約束を破られたことなんか気にしてたら、オレかていくつあったか数え切れへんで。それよりや、陽平は普通の恋をした方がええと思うで。どっかにエエ子おらんの?」
「ヘタなんやな、女の子と仲良くなるん。」
「そんなことはないやろう。お店の女の子とは仲ようやってたやんか。」
「どうせ貢がされてただけやってことやろ?」
そう言うと陽平はおもむろにポケットから小さな箱を取り出した。
「なんなんそれ?」
「リエちゃんにプレゼントしようと思って買っておいたペンダント。」
「あははは、今どきの女の子がペンダントなんかもらって喜ぶんか?バッグとか指輪やないとアカンのとちゃうん?」
「ヒデはどんだけ贅沢な女の子と付き合って来たんや。ボクが気に入る女の子はみんな普通の女の子やねん。さっきも言うたやろ。」
「せやけど今どきペンダントなんか、時代遅れもええとこやで。どれ、見せてみいな。」
秀哉は陽平の手から小箱を奪い取ろうとするが、そうはさせじとポッケに戻す。
「ええねん、キミなんかに査定してもらわんでも。またこのペンダントが似合う女の子に会うまで大事に取っとくわ。」
「また、あの店のか?」
あの店―――。
秀哉と陽平が話している「あの店」とは、昨年の冬、ふとしたことから足を踏み入れたセクシーキャバクラのことである。店の名前は『ナイトドール』といって秀哉には馴染みの店で、彼にはジュンというお気に入りの女の子がいて、たまに遊びに行くのである。
秀哉が通っていた一年ほど前は陽平には彼女がいたので、できるだけ夜の店への進撃は控えていたのだが、半年ほど前に陽平が不幸にも当時の彼女に振られたとき、秀哉が誘った慰め会の夜、やや強引に連れられて店の扉をくぐってしまったのがきっかけである。
それ以降、なまじ嵌ると深く溺れるタイプの陽平にもお気に入りの女の子ができたために、あっという間に恋に落ちてしまったのである。
ところがある日突然、お気に入りの女の子は店を辞めてしまい、陽平はまたしても恋に破れる形となっているのである。
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