=意外な急接近=

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そんなことばかりを考えながらの仕事である。動く手が遅いのは当然だ。 だらだらと遅い時間が過ぎて、ようやく待ちに待った終業時間が来ると、陽平の手先は俄然早くなる。目の前に広がっている書類や小道具を目にも留まらぬ速さで片付けると、一目散にロッカーへと走り出す。 「どうした?今日はデートでもあるのか?」 からかうように声をかける課長の声も耳に入らぬようだ。 「お先に失礼しまーす。」 課長を無視したつもりは無いが、あっけにとられる課長の顔すら見知らぬままに、そそくさと会社を後にする。 駅に向かう陽平の足取りは、スズメのように軽かった。今から展開されるシーンが、お花畑であることが決まっているかのような歩調だ。 駅に隣接しているモールに入ると、一目散に有名な洋菓子のショーケースの前に立っていた。女の子なら甘いものが好きに違いない。などと安易な発想からの思い付きである。 しかし、この思い付きが今後の展開に大きな影響を及ぼすなどとは思いもしなかった。 やがてショーケースの端から端まで舐める様に眺めていた陽平だったが、お目当ての商品を見つけたのか、目の前の店員を呼びつけて、 「これを一つ下さい。プレゼント用に包装してください。」 と注文していた。 笑顔が可愛い若い店員は「かしこまりました」と答えてテキパキと動く。彼女もまた、陽平の好みに合った女の子だったが、すぐさま目の前の妄想を吹き払うと、財布を出して勘定を済ませ、足早にその場を立ち去った。
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