=意外な急接近=

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「ありがとうございました。」 結果的には陽平好みの女の子の声も耳に入らなかったようである。陽平は彼女のお辞儀も確認せずにクルリと背を向け、手渡された品物を大事に抱えて、一目散に『ナイトドール』へと向かって行った。 モールからはバスで十五分。京都の歓楽街は京都駅から東方にあり、電車では不便な方角に位置している。そんな京都ではバスが便利になるのである。京都駅を中心に市内を縦横無尽に走っているバスが不便な電車事情を解消してくれる。おかげで陽平も京都駅から歓楽街まで三十分程度で到着できるのである。 バスを降りて、歓楽街の入り口まで辿り付くと、一様に辺りを見回す。まさかとは思うが、顔見知りがいないか確認するためである。 まだ独身だとは言え、さすがに歓楽街への出入りには気を使う。あまり見知った人に出会いたくない場所であることは確かだ。 陽平は顔見知りがいないことを確認し、ネオン煌くストリートへ足を踏み入れる。目指す『ナイトドール』はストリートのほぼ中央に立地しており、そこへたどり着くまでに色々なネオンの看板を通り過ぎなければならない。 近年の風営法により、呼び込みが禁止されているので、イカツイお兄ちゃんの強引なお誘いは皆無である。それでも扇子を広げ、団扇をあおぎ、ニコニコと勧誘に勤しんでいる。 彼らとなるべく目線を合わせないようにして歩いていくと、やがて目的の看板の前にたどり着くのである。見慣れた階段を登ると、見覚えのあるドア、そして見知ったボーイが出迎えてくれる。 「いらっしゃいませ。今日はどの子をご指名ですか?」 愛想のいいのだけは天下一品だろう。 「寧々さんをお願いします。」 陽平は指名の際に、女の子を呼び捨てにしない。これからお世話になるのだからという彼の一種のポリシーなのである。 「それでは七千円いただきます。」 この店のワンセットは二十時まではこの値段。その時間を越えると八千円になるのである。 「ツーセットでお願いします。」 陽平は用意していた料金をボーイに渡す。 「かしこまりました。少々お待ち下さい。」 ボーイは陽平のオーダー書きを受付に回し、入店の準備よろしく客の上着を預かる。 「お待たせしました。」 ボーイの案内でフロアに入ると、一番手前の通路の前から二つ目のシートにエスコートされた。ここはこの店の二番シートになる。前回の訪問時と同じシートだった。
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