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「じっと見つめられると恥ずかしいやん。」
「頑張ってナンバーワンになるんやろ。これぐらいできなアカンのとちゃう?」
こんなやり取りが、この店にのめり込む要因となるのかもしれない。お気に入りが見つかった客ほど、偽装の世界に入りやすくなるのは当然のことだろう。
そんな楽しい時間ほど早く過ぎるものである。2セットで一時間二十分。まさにあっという間である。
――二番テーブル寧々さんアタックタイム――
「アタックタイムって言うてるわ。でも今日はこれで帰る。寧々ちゃんがブログを書いてくれたら、またすぐ来るかも。」
「うん、わかった。今日はプレゼントありがとう。ホンマにうれしかった。」
「帰る前にもう一回、綺麗なおっぱい見せてもらってもいい?」
「ええよ。見るだけなん?」
「やっぱりちょっと・・・・・。」
「うふふ。やっぱし可愛いな。」
陽平は照れながらも、寧々に甘えるようにして自由な手をビキニの中へ侵入させていた。
「ありがとう。これでゆっくり眠れるわ。」
「ありがとうはウチが言うことやんか。また来てな。ヨウちゃんやったらいつでも大歓迎やで。」
陽平は寧々と腕を組んでドアへと向かう。
最後に妖艶な口づけをプレゼントされて。
誕生日プレゼントは思いのほか効果的だった。これでもう寧々は陽平のことを完全に覚えただろう。名刺も渡せた。次回からは互いに名前で呼び合える。
但し彼女は源氏名だけど。
それでもよかった。陽平にとって、新しい出逢いと急激な親近感とが得られた夜になったからである。
チョコレートが思いのほか効果てき面だったことにも驚いていた。
「チョコでいいなら簡単だ。アッチコッチで色んなチョコレートを買っておこう。」
陽平は仕事柄、月に一度ぐらいの間隔で地方出張に行くのである。最も回数が多いのが東京だ。東京にはお洒落なチョコレートがワンサカとある。
「今から東京出張が楽しみだな。」
何気に夜道を歩きながらほくそ笑んでいた陽平だった。
まだ肌寒い春の夜の風も、この日ばかりは、その冷たさも感じなかったことだろう。それ程までに陽平の気分が浮かれている夜だった。
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