=模索する想い=

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「ええ?どんな話したんですか?」 「可愛い後輩やねん、いつまでも一人で心配してんねん、誰かエエ子おらんやろか、マスター知ってる?ってな。ほんなら最近の失恋話まで教えてくれたで。」 「いやいや、マスターも詳しいことは知らんはずやし。」 「ついこないだ、友だちとそんな話をしてたらしいやん。冴えん表情やったし、お友達の声は大きかったから、話の内容まで筒抜けやったらしいで。」 陽平は体ごと溜息を吐くしかなかった。 「でも、もうその話は過去の話やし、ほっといてくれませんか。昨日のお礼のランチはご馳走させてもらいますから。」 「あほ、ランチはランチやん。せやけど、アンタのこと心配してんのもホンマやで。まあ、この続きはランチのときにな。さあ、仕事仕事。」 そう言うと加藤女史は陽平に背中を向けて、自らのアポイント先への資料をまとめ始める。 「朝からいきなり憂鬱やなあ。」 ぼやく陽平を尻目に、急ぎの仕事が時間をせっついていた。 仕事に追われてあせる陽平だったが、どうにか正午には一段落までこぎつけていた。 会社にランチタイムを知らせるチャイムはないが、部長の「さあメシだ!」の掛け声が毎日の合図になっていた。どこの会社も上司が先に休みをとらないと、下が休みにくいというシステムは変わらぬようだ、 まもなく加藤女史が陽平のデスクにやってきた。 「さあ、『かば屋』へ行きましょ。」 加藤女史の表情は、最近にないほどウキウキした顔をしていた。 「ボク、食欲無くなってきました。」 「そんなこと言うとらんと。食べんと夜まで持たんで。どうせ残業あるんやろ?」 加藤女史の表情とは打って変わって、浮かぬ顔をした陽平だったが、渋々二人で会社を後にしていた。 ルンルン気分の加藤女史は、まるで恋人同士のように陽平と腕を組んで歩く。 「加藤さん、なんで腕を組んで歩くんですか?別に逃げたりしませんけど。」 「久しぶりに年下の男とランチデートやんか、ちょっとはその気にさせなさい。」 加藤女史もそれなりには美人だ。若い頃には多少憧れた時分もあった。正直に言えば悪い気はしない陽平だった。 『かば屋』は会社から歩いて十分ぐらい。居酒屋バーだが、昼はランチを仕立てている。 「いらっしゃい。あれ?妙な組み合わせやな。ああ、こないだのおねいさん。今日は同伴ですか?」
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