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「これっ、アホ言いなさんな。こんな若造を客にしたかて儲からへんがな。ホンマに同伴すんねやったら、もっと上客さがすわ。」
などといった冗談が交わされるのは、大阪も京都も変わらない。
「うん、確かに。で、何にしはりますか。」
「ボクはうどんとおにぎりでいいです。」
「アカン。そんな品疎なもん食べてるから色んなことに力が入らへんねん。マスター、Aランチ二つね。」
Aランチとはハンバーグとグラタンとエビフライのセットである。
「えっ、そんな。財布が悲鳴をあげますやん。」
「やかましい。今夜は残業確定やねんから、ちゃんと食べとかなアカン。これは先輩としての命令や。残業手伝ったるさかいに、色々ガンバリ。」
「とほほほ。」
もう従うしかない。そんな状況である。
「ところでな、マスターから聞いたんやけど、夜のお店の女の子に恋したんやって?そのあたりのことを聞かせてや。」
「そんなん、女の人にしゃべる話やないです。ありのまま言うたらスケベな中年オッサンがお店の女の子に熱上げてイカレてるだけの話です。」
「尾関クンはなんで普通の恋愛をせえへんの?若い頃は彼女もおったやろ?」
「それがね、もう少しで結婚かというタイミングで、他の女の子にちょっかい出したのがバレて、一気にパーですわ。」
「それ以来なんもないの?」
「なかなかね。出逢いが無いやないですか。当時の職場の女の子はみんなボクの振られた理由を知ってましたから、誰もボクには寄り付きませんし。女の子同士のオシャベリネタになってたらしくて、新入社員の女の子でも知ってるぐらいやったし。」
「あははは。そういやそうやった。当時のネタとしてはいじくりやすかったからな。」
そこへマスターが両手に膳を抱えて二人の間に入ってくる。
「はい、お待ちどう。ねえさん、どっかコイツにお似合いの女の子おらんやろか。誰か紹介してやってもらえませんか。」
二人の話を聞いていたかのような入り方だ。
「マスター、先輩にどんな話をしたんですか?」
「ああ?おまいさんがこのテーブルでワンワン泣いてた話やんか。ヒデちゃんもいっしょやったなあ。」
「そのヒデちゃんってY企画のやろ?」
「仕事先までは知らんけど、いっつも二人で風俗の話をしてやがる。アイツの方がちょっと遊び人かな。コイツはそれに付きおうてるだけかもしれんが、泣いてんのはいっつもコイツの方や。」
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