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箸を止めて、しばらくカードとにらめっこしていた陽平だったが、ココは素直にポケットにしまいこんだ。
「一応、お借りします。」
「返さんでエエねん。アンタに用事がなくなったら、次の誰かにあげたらエエねん。そういうカードや。名前書くとこ無いやろ。」
そういえば不思議なカードだった。
「アンタがウチの会社に入ってきた頃は、カワイイヤツが入ってきたなと思ってたんやけどな。」
「そんなこと言わはんねやったら、加藤さんがボクと結婚してくれてたら良かったんやないですか。」
「ウチな、年下には興味ないねん。特にアンタみたいな子供っぽい大人にはな。こないだ梨香ちゃんも言うてたけど、根はエエヤツなんやから、ちゃんとした恋をしたら、ちゃんとした結婚ができるはずやで。」
「うう、ちくしょう。なんか腹が立ってきたら、無性に腹も減ってきた。」
そういうと、今まで進まなかった箸だったが、あれよあれよという間に皿の上のディッシュを陽平の腹の中に送り込んでいく。
「先に戻るわ。昼からの用意しないかんし。」
すでにデザートまでを空にしている加藤女史は、スッと立ち上がり伝票を持って出口へと向かう。
「えっ?今日はボクの支払でしょ?」
「ええよ。出世払いな。見込みは薄そうやけど。その代わり、そのカード使って彼女が出来たら、ちゃんと報告するんやで。」
加藤女史は、口の周りをホワイトソースだらけになっている陽平を残して、先に店を出た。後に残された陽平は、もう一度ポッケから不思議なカードを取り出して、何かに取り付かれたようにじっと見つめていた。
「これもエエけど、先に寧々ちゃんとこ行かな。」
結局、陽平の耳には加藤女史のアドバイスは入っていかなかったようである。
そして夕方、加藤女史に命令された残業に付き合っていると、胸のポッケからけたたましくケータイが鳴り響いた。秀哉からだ。
「あっ、忘れてた」
慌てて電話に出る陽平だったが、電話の向こうでは秀哉が喧々囂々と騒ぎ立てている怒鳴り声が聞こえている。だからと言って、大勢の人が喚いているわけではない。
「六時に『かば屋』って言うてたやろ?いつになったら来るんや?」
「アカンねん、残業中や。今日は行かれん。」
「オレの見合いの相談はどうすんねん。」
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