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「そんなんオレの知ったことか。勝手にしたらええやん。今はそれどころやないねん。恐い先輩に睨まれて残業しとんねん。また今度にしてや。」
するとそばで電話を聞いていた加藤女史が茶々を入れてくる。
「ちょっと、誰が恐い先輩なん?」
「あかん、恐い先輩に聞こえてる。またな。」
「遅なってもかまへん。ちょっと来てくれ。待ってるし。」
「十時になるぞ。」
「ええで。三十分もあったら間に合うし。ほな。」
そう言って秀哉は電話を切った。
「また悪い友達からの誘いやな。」
加藤女史にはすでに察しがついているようだ。
「やるだけやってから行きます。」
「K商事の分までできたら終わってもエエで。せやけど、そこそこにしときや。」
「ハイハイ。」
「ハイは一回でええねん。」
「ハイ。」
陽平は三十分ほど集中し、業務をこなした。続きは明日の業務に回せばよい。最後の計算を終えると、大きく溜息をついた。
「じゃあ加藤さん、お先に失礼します。」
「ハイハイ。」
「ハイは一回でええんでしょ?」
「ハイハイ。」
そんなやり取りは関西ならではの会話かもしれない。
会社を出ると急ぎ足で『かば屋』へ向かう。
そろそろ冷たい風も和らいでいる。残念ながら星明りはクッキリ見えないけれど、月だけはニッコリと微笑んでいるようだった。
時刻は九時の少し手前だった。
道行く人は駅へ向かう流れが多く、今から繁華街へ向かう人はその激流に逆らいながら進まねばならなかった。
会社からほど近い『かば屋』には十分程度で到着する。中では秀哉が今や遅しと手薬煉を引いて待っていた。
「おう、早く来れたな。恐い先輩もオレとの面談やと早めに解放してくれるんかいな。」
「あほ、逆や。あんまり深みにはまりなやって言われて来たで。ほんで、話ってなんやねん。めんどくさい話はゴメンやで。」
「あのな、初対面の女の子に喜ばれるプレゼントってなんやろ。」
陽平は秀哉の顔をじっと見つめて、しばらく黙っていた。
「そんなん、ヒデの会社の女の子に聞いたらええんちゃうん。オレも女の子の気持ちなんかわからへんし。」
「イヤイヤそうやない、おまいさんの感性を聞きたいねん。実際にするかどうかは別の話や。他にも初対面の女の子とどんな話題をするのかとか、どうやってデートに誘うのとか、陽平流の感性を聞き出すのが今日の目的やねん。」
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