=プロローグは風と共に=

4/7
前へ
/47ページ
次へ
「新しい女の子の様子も見て来たるから、明日、楽しみにしとき。」 陽平は秀哉の言葉も耳に入らぬかのように、虚空の一点を眺めていた。 「ほらほら、新しいジョッキが来たで。これだけ空けたら、今日はもう帰りや。」 秀哉はここまでの勘定を払い終わると、颯爽と店を出て行った。 一人残された陽平は、ケータイを取り出して、リエにメールを打ち始める。 店に通っている間、女の子たちは馴染みの客とメールで連絡をやり取りしていた。しかし、店を辞めると同時に連絡が取れなくなることが常であった。 陽平もわかってはいるが、それでもメールを送るのである。 「リエちゃん、キミにプレゼントしようと思ってたペンダント。いつかキミに渡せるその日まで、ボクの机の引き出しにしまっておくからね。」 送信ボタンを押して、唐揚をほおばり、ビールを注ぎこむ。 数秒後、ケータイのメロディが流れた。 一瞬、返事が返ってきたと思い、喜び勇んでメールを覗いた途端、陽平は闇の底へ突き落とされた。今までは、返事が帰ってこないだけの音信不通だったが、今度はアドレスが完全に削除されたとみえて、不達メールとして帰ってきたのである。もはや、陽平がメールを送ることさえ拒否されてしまったのだ。
/47ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加