=プロローグは風と共に=

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「どないや。ウチのバイトを紹介してやろか。」 「エッちゃんでしょ。普段から普通に会話してますよ。」 バイトの女の子はエリカちゃんといって、京都市内の大学に通うアルバイトの女の子。ポニーテールがよく似合う可愛い女の子だった。しかしながら、彼女はスレンダーであり、陽平のタイプではなく、彼女との会話は客と店員の間で交わされるであろう普通の会話にとどまっていた。 「おまいさんらがどんな店に行ってたのか知らんが、思い切って違う店にでも行ってみたらええねん。どの店に行ったって同じやと思うけどな。それよりもちゃんとした彼女をちゃんと探した方がエエかもよ。」 マスターはそれだけを言うと厨房の奥へと消えて去り、陽平にはどんよりとした重い空気だけが残された。今宵も炙りたらことぬる燗をちびりながら、ただ時間が流れるのを見送くるしかなかった。 そんな折、ふと店内を流れているテレビを見上げると、陽平が若かりし頃に流行っていたドラマのリプレイシーンが流れていた。 そして、その役者が言い放ったセリフこそが陽平の印象に強く残っていたセリフだった。 『踏ん切りをつけるためにあの場所へ戻るんだ。』 確かに見覚えのあるシーンだった。当時の記憶が蘇る。まだ陽平が大学生だった頃、学生同士の恋愛劇を描いたトレンディドラマだった。陽平が好きな女優が出演していたこともあり、深く記憶に残っていた。 先のセリフを言ったのは陽平が好きな女優ではなかったが、ドラマの中で失恋した男が立ち直るきっかけを掴むために、その友人が言い放つセリフだった。 「あの場所へ戻れか。せやけど、戻ってどうなるってもんでもないやんな。」 ぼそっとつぶやいては見たものの、その後のドラマのストーリーがどうなったかをうろ覚えにしか記憶にない陽平にとっては、その役者のそのセリフを言う一幕だけが唯一記憶に残っている場面だったのである。 「確かあの場所って図書館やったよな。そんでもって受付の女の子と恋に落ちるんやな。そんな都合のエエ話、ドラマやからあり得るねんな。」 愚痴はこぼすものの、気になり始めているのも事実だった。 「まあ気晴らしに、新しいおっぱいの大きな子を見に行ってみるかな。」 マスターなら「またその店かい」って言うだろう。でも秀哉なら「行った方がエエよ」って言うに違いない。
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