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そう笑ってまた歩き出した。
「躓いた......?」
訝しむオレの背後で、スズリが何かに気づいたように眉をひそめた。
▽
翌日。夕方にキャンサーの進行。
変わらず、コトハが一人で相手取ることになった。
「むっ......」
掃射でキャンサーを屠っていたコトハが唸った。
視線の先には一体のレベル3。
巨大な盾で武装したそれは、ジリジリとその距離を詰めてくる。
弾が通らない敵だった。故にオレは一歩前に出る。
「よっし。オレはあいつを倒してくるぜ!」
同じくスズリも一歩前に出るが、
「待ち!」
そう叫んだコトハに止められた。
「あんなん他の雑魚と変わらへん!アンタらは下がっとき!」
敵から目を逸らさないコトハだったが、口調は厳しく、どこか焦っているようにも感じられた。
「でも!」
「ええから、そこでジッとしとき!」
叫んだコトハは詠唱を開始。
「こちら戦場の奏者。極東戦線より、奏でるは銃火器の円舞曲。兵が消耗品の鉛弾なれば、鉛弾もまた兵なり。時計を合わせろ我が隊員達!」
彼女は自身の少し前方の地面に、弾を横一列に撃ち込んだ。
「〈偽奏:極東戦線第十三小隊〉」
黄色い光が、銃弾を撃ち込んだ地面から伸びた。
そして、まるで植物の成長を早送りで見るかのように地面から生える黒い塊。
それはやがて、黒ずくめの人型となる。
特殊部隊のスーツのように見えるそれを着た兵士たちは、皆手にアサルトライフルを握っていた。
「目標、十二時方向のレベル3。構え!」
コトハの叫びと同時に、二十体ほどの兵士達が一斉に銃を構える。
「撃て!!」
合図を受け、一斉にトリガーを引いた兵士達の銃が唸る。
二十倍以上の攻撃を受けたレベル3の盾はやがて穴開き、そして文字通り蜂の巣となって倒れた。
それを見計らい、兵士達はコトハに敬礼。砂のように散って消えた。
▽
「はぁ......。はぁ......。な?問題ないやろ?」
全てのキャンサーを倒し終え、息を切らして笑いかけたコトハの額には大粒の汗。
「何が問題ないだよ!凄いしんどそうじゃねぇか!熱か?」
「いや。〈言霊欠乏症〉だ」
そう静かに言ったスズリが、不自然に背後に隠していたコトハの腕を取る。
指先から、白いヒビ割れのようなスジが入っていた。
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