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シトちゃんの能力は〈噛み隠し〉。
物理的に噛んだものを、隠すことのできる能力だ。
隠す。と言っても見えなくするだけではない。
『見えなくする』から『見れない聞こえない触れられない感じない』まで隠す深さを変えることができる。
キャンサーの群れへ走って言った彼女は、自分の手を噛んだ。
同時、彼女の姿がかき消える。
ウチもキャンサーも、誰も彼女の居場所はわからない。
「ここやで、アホウ」
群れの中心にいたレベル3。その背後に立っていた。
彼女は腕を振り抜く。〈隠さ〉れているが 、その腕のアーマーは刃状に変形していた。
両断されるレベル3。また消えるシトちゃん。
こうやって、今日もまた全て倒していく。
こうやって、何も出来ずに今日が終わる。
そして半年後のある日、ウチらは〈何か〉と遭遇した。
それがなんだったのかはわからない。何故ならシトちゃんが、その存在ごと〈隠し〉たからだ。
誰も思い出せないそれについてわかるのは、『物の真名を噛み、存在ごと言い誤る』という、シトちゃんの最終奥義を初めて使わざるを得なかった相手であったこと。
そして、彼女が昏睡状態にあるということ。
出撃時には元気に笑っていた彼女は、二年経った今も、まだ目を覚まさない。
そしてきっと、きっと彼女があんな目にあったのは、私のせいだ。
▽
「あれからウチは強なった。シトちゃんが私のせいであんなことになったんやったら、今度はウチの番や」
一人で戦い、仲間を守る。
たとえそれで命絶えようとも、構わないと言うように、コトハは力強く言った。
その目は、悲しく潤んでいた。
「安心してーや。今回のレベル4を倒す算段はある。発動できるかは一か八かやけど......まぁ行けるやろ。最終、命でもなんでも削ったるわ」
完全に開ききったゲート。黄色の装備を持ち、奥へと歩いていく。
その背中に、叫んだ。
「仲間を失う辛さを知ってるなら!なんでオレ達にその辛さを負わそうとするんだ!!」
ピタと、足を止めた。
「仲間を失った悲しみを誰よりも感じているお前が、どうしてオレ達が悲しむことを考えない!」
「......別にアンタらなんか仲間やない!」
「矛盾してるぞ!仲間だと思ってるから一人で戦うんだろ!?」
「矛盾だよユウキ......」
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