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待ってくれ。そんなこと覚えていない。僕は昨日の夜職場の人と飲んでいて、ああそうだ。あれは僕自身の送別会であった。ろくに休みも取れない残業ばかりのこんな会社ごめんだと威勢良く辞表を叩き、大いに呑み一人置いていかれて。そのあとどうしたろう。
死力をふるって男を、怪物を見上げる。
蒼白の硬い皮膚に、アリクイのような長い鼻。下顎のない削げた顎から伸びる顎髭。落ちくぼんだ眼球のない目が笑う。諸君、これはどういうことだろう。夢だろうか。
「お、前…は……」
御読者の皆々様、僕にはこれ以降の記憶がない。
意識が真っ暗闇に落ちたからだ。これ以降の話も僕は語れない。先のことは今は何も知りえないのだ。ただこの瞬間に限って言えば僕は酸欠で意識を失ったのものと思える。
その明朝、僕は散々だった。酔い潰れるというのはとにかく散々だ。目覚めると得体の知れない未来が用意されていたりするのだから。
「おやすみ、俺のニンゲン」
手の穴からこぼれ落ちた僕の体を見下ろし朝日を背に男は嗤った。
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