明朝

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 と僕は起き上がるとすぐに腹の上の、見る角度を変えたら口が筒状の大穴になっている木彫りの虎の置物を片腕に抱え床にあぐらをかき、侍のごとく片拳と頭を床につけるのだった。こういうものは素早く素直に謝るのが鉄則だ。 「小芝居はいいから、怒っちゃねえよ。そのデグかたしてファルコネット下げるの手伝え」  男は言う。顔を上げた僕はハッと短く吸い込んだ息を無理やり飲みくだした。 「は、はい。承知つかまつり…」  そもそもこれは小芝居ではないし、僕はただ不法侵入したかもしれないことを平に謝っているのだ。しかし男は取り合わない。困り果てた僕は木彫りの虎と視線を交わす。  さて読者諸君、ここでなぜ僕が弁解もせず「はい」なんて言ったのかと思うだろう。  しかしこれについては弁明の勇気が出るまでもうしばし待ってほしい。僕が大人しく従うのには訳がある。男の恐ろしくも個性的な風貌は後で説明しよう。 「お、もっ…」  デグと云うらしい虎の置物は腹や膝で感じたよりも持ち上げるのには重かった。  この虎どう見ても木彫りだが、重さは金属のそれだ。  指定されたガラス張りのショーケースに短きこの夜の元相棒をどうにか収める。  同じ列にははたくさんの奇妙な置物が並び、覗き込むと様々な動物や人形の無機質な視線を感じ妙に恐ろしい。  慌てて木枠のショーケースのガラス戸を引くと何度か引っかかり立て付けの悪いギギギ、という音がした。     
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