明朝

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 穴の開いた男のもう片手が僕の指をあろうことか差し出した己の掌の穴に差し込む。 「ひっ…」と思わず声が出る。誰が人の手に開いた巨大な穴に手を突っ込みたいだろうか。しかもあろうことか、男は僕の指の股に自分の指を絡ませてきた。  凄まじい鳥肌が立つのを感じながら僕は耐えた。僕は耐えた。 「明朝営業だから商売上がったりだ。しかも近頃の意気地なしどもが人間を一人雇わなきゃ営業停止にするなんてほざきやがって」  男のぼやきに「はあ」と相槌を打つと男の空いた掌が僕の顔めがけて迫ってくるので思わず避けた。男が舌打ちをする。 「さっきからお前は俺の邪魔をしたいのか?あ?どうなんだ」 「い、いえ滅相もないことで…」  どうやら僕は男をイラつかせたようだ。またしても何のことやらさっぱりわかっていないことを伝え損ねる。怯え黙ると大きな掌が僕の口元にあてがわれた。と言っても通気性抜群の掌なので親指と残り四本指がこめかみを締め付けてくるだけだ。 「なんで息を止めてるんだ…」  男は呆れ果てた声で言う。そりゃ怖いからに決まっている。 「息を吐け。承認されないだろ」 「承認って」 「なんのために手なんか繋いでると思う。いいから大きく吸って吐け」     
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