明朝

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 この男は一体どういう仕組みで話しているんだろうか。この間も男の握力をこめかみに感じた僕は胸いっぱいに息を吸い、そして吐いた。全ては頭蓋骨を死守するためだ。頭がギシギシいう音を初めて聞いたことをここに諸君に報告しよう。  男は僕を手放した。 『ニンゲン カクニン ヘイテン カイジョシマス カイテン』  不思議な声がして部屋中がバリバリバリバリ!という轟音をあげた。最後にちりりんとベルの音がなる。 「いつまで握ってるつもりだ気色悪い」  男がもごもごと、しかし嫌悪もあらわに言う。震えそうな手を離し自分のスラックスを掴む。その手触りの安心感と言ったらない。この場において唯一日常性のあるアイテムは身につけているスーツしかない。  そういえばカバンもない。尻のポケットにもジャケットのポケットにもスマホがない。 「すいません僕の鞄は…」  真っ黒のくぼみが僕を見つめる。 「あの。鞄持って家を出たつもりなんですけど。黒いリュックなんですが僕…」  飲み屋においてきてしまったんだろうか。 「お前の名前」男が言う。 「はい?」 「カモシカな」 「カモシカ…」  なぜそのような名を僕につけるのか、僕の常識では計り知れない。というか早く家に帰りたい。     
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