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「また、出会えなかったのね。」
声を落として呟く、少し、シワの目立ち出した継母の顔を見つめる。
稜はいつものように力ない笑みを浮かべた。
当然だよ。
薬を飲んでいるんだから。
お義母さん、βの貴方には想像できないでしょう、あの場所が、どれだけ狂っているのか。
ヒートと呼ばれる発情期の間にそのパーティに出ることが多い。
自分のフェロモンを垂れ流して、αはそこから番を探そうとする。
お見合いだ、なんだのと人々は最もらしい名前をつけたがるけれど、実際に行われているのは獣同士の交わり。
あの閉ざされた世界で、なにが行われているのか、外部の人は知らないだろう。
個人差はあれど、強すぎるΩのヒートはβさえも惑わす。
αとΩだけの狭い世界。
異様な熱気に包まれた会場。
番をそこで見つけられず、興奮状態のαはΩをその場て押し倒す。
女と、まるで女のように泣く男。
Ωのそんな姿は直視できないものがあった。
誰でもいいのだ。
結局は。
αは相手の匂いに酔って本能のままにその服を剥ぎ取る。
あれが選ばれた人間?
そもそも人間なのか?
ヒエラルキーの頂点に立っているはずのαは、理性を失い、まるで獣のようにさえ見える。
だから俺はいつも会場に入ると直ぐに薬を飲んで、隅でじっとしている。
壁の一部になったかのように身を固めて。
この狂った世界の扉が開くまで。
外の日常にちゃんと戻れるまで。
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