第1部

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「また、出会えなかったのね。」 声を落として呟く、少し、シワの目立ち出した継母の顔を見つめる。 稜はいつものように力ない笑みを浮かべた。 当然だよ。 薬を飲んでいるんだから。 お義母さん、βの貴方には想像できないでしょう、あの場所が、どれだけ狂っているのか。 ヒートと呼ばれる発情期の間にそのパーティに出ることが多い。 自分のフェロモンを垂れ流して、αはそこから番を探そうとする。 お見合いだ、なんだのと人々は最もらしい名前をつけたがるけれど、実際に行われているのは獣同士の交わり。 あの閉ざされた世界で、なにが行われているのか、外部の人は知らないだろう。 個人差はあれど、強すぎるΩのヒートはβさえも惑わす。 αとΩだけの狭い世界。 異様な熱気に包まれた会場。 番をそこで見つけられず、興奮状態のαはΩをその場て押し倒す。 女と、まるで女のように泣く男。 Ωのそんな姿は直視できないものがあった。 誰でもいいのだ。 結局は。 αは相手の匂いに酔って本能のままにその服を剥ぎ取る。 あれが選ばれた人間? そもそも人間なのか? ヒエラルキーの頂点に立っているはずのαは、理性を失い、まるで獣のようにさえ見える。 だから俺はいつも会場に入ると直ぐに薬を飲んで、隅でじっとしている。 壁の一部になったかのように身を固めて。 この狂った世界の扉が開くまで。 外の日常にちゃんと戻れるまで。
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