19人が本棚に入れています
本棚に追加
/26ページ
店から歩いて帰れる距離に課長のマンションはあった。
猫大好きの課長は、てっきり野良生活でもしているかと思ったが、流石に違った。
エントランスの入り口で、暗証番号を打ち込んでいる背後に駆け寄る。
「え? 君……」
驚く課長に微笑みかけて、紙袋を手渡した。
続けて中身を確認するように促す。
「猫のオモチャ?」
「これで脳内猫ちゃんと遊んであげて下さい」
「……前から用意してくれていたのか」
バースデーカードを読んだ課長は嬉しそうに私に微笑んだ。
「ところで、課長。流石に外は寒いですね。中に入れて貰えないですか?」
「え! そ、それは……父親ほど年の離れた男ヤモメの部屋なんて、ろくなものじゃないよ。なんだったら近くの喫茶店にでも、な?」
ええ?! 女子からアプローチしてあげてるのにへタレるの?
もう、こんなところは猫っぽいな。
様子伺いなんていいから、犬みたいにストレートに反応すればいいじゃない!
「私、赤ちゃんの頃に父親が居なくなっていて……そういう存在に憧れがあるんです。お父さんみたいな課長が、どんな暮らしをしているのか、見せて貰えたら嬉しい……かな?」
打ち明け話をして、上目遣いに課長の顔を見つめる。
「うむ、しかしな……」
目を逸らした彼の腕をそっと掴む。
「よかったら、私の身の上話、少しでもいいので聞いて貰えませんか? 上司としてで構いませんから」
「……」
「勿論、猫好き同士の話でも……」
「……」
沈黙の後、課長はフッと溜め息を吐いた。
「本当にひどい部屋だぞ? コーヒーくらいしか出せないけどいいか?」
よし!
「はい、なんなら私が片付けて差し上げます……ホントは寂しいくせに」
「え? 今なんて?」
「いえ、何でも。じゃあ、お邪魔しますね」
エントランスのドアが開くと私は課長の手を引いてマンションの中に入っていくのだった。
最初のコメントを投稿しよう!