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草羽音市の西側に存在する、巨大なショッピングモール。その外側に隣接する広場に、二人の影が向かい合っている。一方は、赤を基調とした丈の短い浴衣に身を包んだ高校生くらいの隻眼の少女。そしてもう一方は、彼岸花が咲き誇る黒の着物に身を包む十歳程度の少女。
「はぁ、はぁ、しつこいわよあんた」
「追いかけられたくなかったら私にかけた呪を解きなさい」
「力使えてたじゃない。そんな落書き新年の羽子板遊びみたいなものでしょ」
「味が分かんないのよこれのせいで! そんな状態じゃ何食べても気が滅入るでしょう!」
朱里、は今ここにいない白臣の事を考える。白臣はあの久遠と戦闘に入っているのだろう。すぐに助けに来るのは難しいかもしれない。
目の前の少女の力は得体が知れない。単体で挑むには少しリスキーに感じていた。
「良いの? 久遠さん、今頃、白臣に殺されそうになってる、いえ、殺されてるかもしれないわよ? ラーメン屋にいた時点で、貴女と同じ『縛り染め』をかけてるからね。貴女が戻ってあげないと、何もできずに死んじゃうかもかも?」
「その程度の逆境、久遠なら問題なく切り抜けるわ」
迷いの無い信頼。それは彼女らが主従の関係で結ばれているからか。
それともまだあの男には奥の手があるというのか?
そこまで考えて、朱里は首を横に振って心の中で否定する。
(いや、あの状況じゃ呪も使えない。狐は桃舞っちの方についてるのを確認したし! 白臣がやられる事なんてまずあり得ない)
そもそも、全力で戦ったとしても、白臣が負ける可能性などありはしない。久遠がいかに優れた式神使いであったとしても、白臣は土御門家筆頭。陰陽寮の中でも五本の指に入る実力者だ。及ぶわけがない。
(こうなったら、白臣が助けに来るまで、時間を稼ぐしかないかな)
「本当はそんなに戦いたくないんだけど、ね!」
力強く言い放つと、朱里は着物の胸元から細長い物品を取り出した。
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