0人が本棚に入れています
本棚に追加
身を潜めるならまだしも、戦闘中にまで力を抑える必要はないはずだ。それなのに、妖力を感じないということは。『縛り染め』が効果を発揮している証拠ではないか?
つまり、彼女にできるのはあの食べる力だけで、他の攻撃手段は封じられている状態なのかもしれない。しかし、そうなるとあの喰らう力は正真正銘妖力を使用していないという事になる。だが、そんな事はどうでもいい。確かに、こちらの攻撃は通用しないが、向こうも攻撃できないというなら。
「待つしかないって事ね」
朱里はそう呟くと、近くにあったベンチに座り込んだ。
「あら、攻撃してこないの?」
朱里の様子を見て、ヨミが口元に微笑を浮かべながら尋ねてくる。対して、朱里も余裕たっぷりの様子で笑う。どことなく猫のような印象を与える表情だ。
「だって、あなたも何もできないんでしょ?」
「残念。気づかれちゃったか」
「無駄に手を出してこちらの体力消費したって無駄だもの。大人しく白臣が片付けて帰ってくるの待つことにするわ」
ある程度は警戒しているが、大幅に臨戦態勢を解いている。しかし、ヨミも現状では、彼女を屈服しうる手段が無かった。
解けと言って素直に聞いてくれる訳もない。完全に膠着状態か。一度戻るのも手だけど、こいつから目を離してまた何か仕掛けられるのも面倒だ
ヨミは袖の中から小さな竹筒を取り出し、近くで水を噴き上げている噴水に近づいていく。どこかで見た筒だと感じる朱里だが、どこでだったかは思い出せない。京都の民芸品屋で似たような物でも見たのかもしれない。竹筒で噴水に溜まった水を掬い、そのままゴクゴクと飲んでいく。どうやら単純に喉が渇いていたようだ。普通の人間なら衛生的に気になるところだが、毒を飲んでも平気なヨミにとっては何の問題もないのだろう。
「私も久遠を待つしかないわね」
そう言って噴水の淵に腰かける。どの道、ここで争ったとしても、大嶽丸を封じるには土御門白臣の力が必要なのだ。そのためには彼を殺さずに味方につけなくてはならない。極力、陰陽師間での戦闘は避けた方が良い。本来は仲間内でいがみ合っている場合ではないのだから。
最初のコメントを投稿しよう!