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その時、離れた町の一角で爆発が起きた。先程、久遠と別れた位置に近い地点だ。
「もう決着ついちゃったか」
朱里が空に舞い上がる煙を見ながら笑う。
「手札を切ったようね、久遠」
朱里はその言葉の意味を測りかねた。しかし、ヨミはそれ以上言わず、ただ二人の戦っている戦場の方角を見続けていた。
■■■
時は少し戻る。
「オーケーオーケー。遺言はそれかァ? まあ、今回の件に関わっちまったアンタの不運を呪うんだな。燃え散れ」
白臣の頭上に浮かぶ巨大な白い火球。
彼独自の火の呪・ヒノカガビコ。単純に燃やすだけではなく、熱の爆発力を持って、燃やしながら相手を爆散させる事に特化した、超攻撃的な呪だ。中でも、この『白煌焔』は、白臣が戦闘の際に好んで使用する得意技だ。既に、目の前で地面に座り込んでいる久遠は、虫の息。呪を封じられ、式神もいない。先程から、こちらの爆炎に晒され続けて、体はもう限界のはずだ。
(これ以上は時間の無駄だ。さっさと片付けて、大嶽丸を殺しに行く)
白臣は、オーバースローのようなフォームで巨大な火球を投げつける。対して、久遠は座り込んだまま両目を瞑っていた。
観念したか。一瞬、久遠が諦めたように感じ、思わず苦笑する。しかし、違う。目を瞑った久遠の口元が動いている。何かを唱えている。
「臨兵闘者、皆陣列前行・火」
それは九字。陰陽師が強力な呪を用いる際などに使用される言葉で、いくつかの種類が存在する。しかし、久遠の唱えたものはそれとは少し異なっていた。
(九字ではなく十字…、特化型の特殊詠唱だと!?)
十字を唱える久遠は、同時に腰のポーチから一枚の紙きれを取り出していた。表面に梵字が書き込まれているそれは、式神使いが用いる符。
「出ろ、橋姫。久しぶりの出番だ」
瞬間。
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