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シャン、と火球が縦一線に両断された。二つに分かれた火球は、それぞれ左右離れた所に着弾し爆発を起こす。凄まじい衝撃が巻き起こり、白臣も少し顔を腕で覆うが、視線は見開いたまま正面に向けられている。現れたモノを凝視する。
〈久しぶりですね、久遠様。元気にしてらした?〉
「全身火傷が元気に見えるか」
久遠の前で、火球を両断したのは女。全身を紅の甲冑で武装し、手には先端に炎が灯った薙刀を携える美しい女武者だ。最も特徴的なのは、額に生えた五本の角。
「馬鹿な、三体目の式神だと!?」
何か奥の手を隠している事くらいは白臣も考えていなかった訳ではないが、それがまさか新たな式神とは予想していなかった。式神使いは通常、一人につき一体が限度だ。というのも、式神とは、妖怪を自らの呪力で縛り上げ、調伏させるもの。並の陰陽師では一体を縛る分量の呪力を賄えば、総量に対して半分は呪力を持っていかれる。あまりそちらにリソースを裂きすぎれば、通常の呪が使用できなくなってしまう。そのため、式神使いは一体が常道、二体持ちでも珍しいとされる。
(こいつ、どんな呪力してやがる)
「別に隠してたわけでも舐めてたわけでもない。流石に三体出しは疲れるんでな」
久遠は驚きの顔を浮かべる白臣に気の抜けた声で言う。
〈この殿方を仕留めればいいのですね?〉
「殺さずに。この後、協力してもらわにゃならん。それと、俺は今呪が使えないので補助できない」
〈あら、あの子もいらっしゃらないのですわね。久遠様らしからぬ窮地。まあ、そうでもないと私なんて呼ばれないですか〉
あの子、とは恐らくはあのヨミとかいう少女の事だろう、と白臣は適当にあたりをつける。
「随分舐めてくれるじゃねぇか。その女ならオレを止められるとでも?」
〈五行の火の使い手ね。私も鬼だから火が得意なの。一手、指南してあげましょう〉
そう言うや否や、橋姫の頭の角に、それぞれ火が灯る。薙刀にまとわりつく炎もその勢いを一気に増していく。
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