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あちち、と高まる熱気に耐えられず少し後ろに距離を取る久遠。今のうちに、桃舞と狼に連絡を取ろう、とポケットにしまっていたはずの金属片を取り出そうとする。しかし、手を突っ込んでも金属片は入っていなかった。代わりに、少しいびつな形の金属膜が服の内側に張り付いていた。
「熱で溶けてる。火剋金か。これじゃ連絡とれないな」
火剋金。
五行思想における、相剋と呼ばれる相関関係の中の一つ。相手を打ち滅ぼしていく陰の関係性を示しており、火剋金とは、即ち火は金を打ち滅ぼすという意味だ。他の関係性は、木剋土、土剋水、水剋火、金剋木とされている。そのため、白臣は最初から、狼の金属片を受け取らなかった。自分が所持してても意味が無くなるものだという事が分かっていたからだ。
さて、どうやって彼らと合流しようか、と思考を巡らそうとした瞬間、暴風が久遠の思考を遮った。橋姫がとてつもない踏み込みで一気に前方に跳んだ余波だった。凄まじい速度で白臣に肉薄し、薙刀での突きを放つ。
「っ!」
すんでの所で横に身をかわした白臣は、
「燃え散れ!」
カウンターで橋姫の足下から巨大な爆発を起こす。まともに被弾すれば、大抵の妖怪は一撃で消し炭になるだろう。しかし、白臣が意識を向けていた地点に既に鬼武者の姿は無い。
〈その程度では子どもの火遊びですわよ?〉
横目で白臣が橋姫の姿を捉えた時、彼女はすでに次の行動に移っていた。
掌に浮かんだピンポン玉程度の大きさの炎に、ふっ、と息を吹きかける。
〈鬼火、開宴〉
言葉の直後、白臣の眼前まで移動した火の玉が全身に纏わりつくように急速に増殖した。
「!?」
直後、起爆。一つ一つの炎の球が一斉に破裂し、爆炎が一気に体中を包み込んだ。あまりの爆風に久遠も顔を覆う。
「おいやりすぎだ」
大声を上げる久遠に対し、橋姫は微笑のまま表情を変えず何の気なしに答えた。
〈あら、久遠様。これでもまだ甘いようですわよ?〉
言われて、久遠も目を開く。
橋姫が起こした爆炎を、さらに内側から周囲に拡散するように、次なる爆炎が吹き散らした。
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